SGL 演習問題 I.9

Mac Lane and Moerdijk, "Sheaves in Geometry and Logic"(以下 SGL)の演習問題 I.9 は普通に考えるとおかしい(但し,問題文自体が不正確なので間違いと言い切るのも難しい).結論があまり僕にはなじみのないもので面白かったので書いておく.

演習問題 I.9 は次のような問題である.

有理数全体のなす(通常の順序による)順序集合  \mathbb{Q} を圏とみなし,函手の圏  \mathbf{Sets}^{\mathbb{Q}} を考える.
 \mathbf{Sets}^{\mathbb{Q}} における subobject classifier  \Omega が,
有理数  q に対して  Ω(q)=[q, \infty]:=\{ r\in \mathbb{R}~|~r\geq q\} \cup\{\infty\} を満たすことを証明せよ.

subobject classifier というのは up to isomorphism でしか決まらないので,その意味では問いかた自体がおかしいが,そこに目をつぶってもおそらく想定想定解(著者が想定している解答であると僕が想定している解答)が間違っているのではないかと思う.

p.38 で述べられている subobject classifier の記述(今の場合は  \mathbf{C}=\mathbb{Q}^{\mathrm{op}})と,順序集合における sieve の記述とを合わせれば,
 \Omega(q)=\left\{ S\subset [q,\infty)\cap \mathbb{Q} ~\big|~ \forall r\in\mathbb{Q}, \forall s\in S, r\geq s\Rightarrow r\in S\right\}. という記述が得られる.要するに有理数の切断の「上のほう」であって下限が  q 以上であるもの,および空集合だ.しかし,各有理数  r\geq q に対し, r を表す切断は  r を上のほうに含めるか含めないかの 2 通りあるので, \Omega(q) [q,\infty] と通常の切断による実数の解釈で同一視されるわけではない.(また,これらが順序集合として同型でないことは簡単に証明できる.)

なお,この  \Omega(q) を,実数の集合  \mathbb{R} を持ち出して次のように書くことができる:
 [q,\infty] に,各有理数  r\geq q に対応して特別な元  r_{+} を加え, r r より大きい全ての有理数の間に  r_{+} があるように全順序を入れたもの」.


この問題自体は以上で解決しているが,函手(つまり  \mathbb{Q}^{\mathrm{op}} 上の前層)の圏だけを考えるのではなく,層の圏まで考えてみる. \mathbb{Q}^{\mathrm{op}} には III.2 節 (e) のように dense topology を入れる.すると  \Omega(q) に属する sieve のうち,その定める前層が層になるものはちょうど,空集合と, r\in[q,\infty) を用いて  [r,\infty)\cap\mathbb{Q} と表されるものである.除かれた,層にならない sieve は有理数  r を用いて  (r, \infty)\cap\mathbb{Q} と表されるものである.(以上のことは定義から簡単に確かめられる.)前段落で述べた  \Omega(q) の記述を用いれば,層になるもの全体がちょうど  [r, \infty] ということになる.更に,もとの問題にあった  \Omega は, \mathrm{Sh}(\mathbb{Q}^{\mathrm{op}}) の subobject classifier を与えているのだった.

「前層全体」と「層全体」をこのように「subobject classifier に変な元が付け加わってる」という形で見たことはなかったので面白かった.