上質の言語パズル!言語学の知識不要,「国際言語学オリンピック」が面白い

 パズル好きの人に,ぜひ「国際言語学オリンピック」の過去問をおすすめしたい.(リンク先から,問題と解説が全てダウンロードできる.)

 この大会では,世界のさまざまな言語に関する問題が出題される.たとえば2014年の問題は,第1問がベナベナ語の動詞について,第2問がカイオワ語の名詞の変化について等々といった具合だ.しかしこの大会のポイントは,これらの言語についての知識(僕は名前すら知らなかったが)が問われているわけではないという点だ.ベナベナ語の動詞の問題には,ベナベナ語の動詞(1語だけで主語や目的語などを含む文になる)とその訳のリストが与えられている.それを元にベナベナ語の規則を見ぬいて,リストにない動詞の活用を訳したり,あるいは日本語で書かれた文をベナベナ語訳したりせよという問題なのだ.言語学の知識を問うのではなく,言語学に題材をとったパズル問題なのだ.

 パズル好きの人は既にここまでで興味を持ってくれたかもしれないが,「パズルと言われても見知らぬ言語に興味はない」という人もいるかもしれない.そういう人には,ときどき出題されている,数の表し方に関する問題をおすすめしたい.これが実質的に「高度な覆面算」の様相を呈していてまた面白いのだ.たとえば 2015 年の問題1は,「数がナワトル語で書かれた等式6つ」「数がアランバ語で書かれた等式6つ」「ナワトル語で書かれた数=アランバ語で書かれた数という形の等式4つ」をヒントに,ナワトル語とアランバ語の数の書き方を推測する問題だ.もちろん普通の覆面算とは違い,それぞれの言語が10進的な表記かどうかも分からない上,同じ数でも続く音によって形が変わったりする.高度で複雑だけど,エキサイティングな「覆面算」なのだ.この記事の後半で,数に関する問題をもう1問紹介しておいたので眺めてみてほしい.(さらにその下には僕の考え方と解答を書いているので,見たくない人はスクロールしすぎないように注意.)

 きっとこれらの過去問には,パズル好きの気持ちを掻き立てるものがあると思う.そして何と言っても,実在する言語に基づきつつ,それを知らなくても与えられた情報だけを使って解けるという作り方が気に入っている.パズル作家が恣意的に設定したルールの暗号ではないので,解く楽しさだけでなく知的好奇心も刺激される.作問にあたっては,解きながらその言語の規則の特徴が分かるように(つまりその言語を出題する意味があるように)意識してあるようだ.

 かなり難しい問題もあり,僕自身もぜんぜん解き終えているわけではない.ぜひ一緒に楽しんでもらえればと思う.

最後に,具体的な例で問題の雰囲気を説明するために,2012年の問題2とそれに対する僕の考え方を紹介したい.これは数に関する問題で,過去問の中では易しめだと思う.(考え方は問題の後に書いているので,自分で考えたい人はその前で引き返してほしい.)

問題
ウンブ-ウング語
10 rureponga talu
15 malapunga yepoko
20 supu
21 tokapunga telu
27 alapunga yepoko
30 polangipunga talu
35 tokapu rureponga yepoko
40 tokapu malapu
48 tokapu talu
50 tokapu alapunga talu
69 tokapu talu tokapunga telu
79 tokapu talu polangipunga yepoko
97 tokapu yepoko alapunga telu

注: telu < yepoko


(a) ウンブ-ウング語の数を数字に直す問題(省略)
(b) 13, 66, 72, 76, 95 をそれぞれウンブ-ウング語で書け.

僕の考え方

まず tokapu talu (48) に tokapunga telu (21) をつけると 69 になっているので,tokapu talu polangipunga yepoko (79) も同じ構造だろう,つまり polangipunga yepoko が 31 ( = 79-48) だろう.

さらに polangipunga talu が 30 だから,talu が yepoko になると数が 1 増えるのだろう.

すると rureponga talu (10) に 1 を足すと rureponga yepoko (11) になるはずだ.

rureponga yepoko は tokapu rureponga yepoko (35) に出てくるから,tokapu は 24 ( = 35-11) だろう.

tokapu が 24,tokapu talu が 48 なら,talu は「2倍」の意味だろうか.しかし talu のほかの現れ方を見るに,talu は単に 2 のことで,tokapu の後に置かれたら 2 倍の意味になると考えたほうがよさそう.

talu が yepoko になると数が 1 増えたのだから,yepoko は 3 だろう.

それなら tokapu yepoko は 24 * 3 = 72 だ.tokapu yepoko alapunga telu (97) により alapunga telu は 25 ( = 97-72) だろう.

ここで tokapu (24),alapunga telu (25) を見比べると,1 語で表される tokapu に 1 を足しただけなのに単語がまるっきり変わっていることに気づく.すると -nga は「マイナス」の意味ではないだろうか.しかし,すると alanpunga yepoko (27) と齟齬が生じる.-nga telu < -nga yepoko だが,注によれば telu < yepoko なので,-nga によって大小関係は変わらないはずだからだ.

このことには暫く混乱したが,とりあえず今まで考察した例に出てきた yepoko,talu も tokapu 直後以外は全部 -nga の後だったので,とりあえず -nga をつけてひとまとまりとみなしてみる.そして,-nga telu は -3,-nga talu は -2,-nga yepoko は -1 というのは正しそう.というのは,そうすると rureponga talu (10) から rurepo = 12 が,malapunga yepoko (15) から malapu = 16 が,alapunga yepoko (27) から alapu = 28 が,polangipunga talu (30) から polangipu = 32 がわかり,さらに supu (20) であるように,1 語で表せる単語が全て 4 の倍数だということになる!この言語の数は4を基本にしている,という分かりやすい指針に気がついた.(そういえばそういう言語があると聞いたことがあるが,問題を解くのにその記憶は関係ない)

4が基本だと分かったので,-nga を「4を引く」だと見ることを思いついた.すると telu =1 で -nga telu が -3,talu = 2 で -nga yepoko が -2,更に yepoko = 3 で -nga yepoko が -1 で,これで注とも全ての例とも辻褄があう.

これで全ての謎が解けた.たとえば 95 は 95 = 24 * 3 + (24 - 4) + 3 で tokapu yepoko tokapunga yepoko というはずだ.(ほかの解答は略)